蜂の危険度はMAX.。
山には危険な不快動物がいっぱいです。ヒル、マムシ、熊、猪、野犬、アブや蜂。その中で最も危険度MAXは、スズメバチ。
蜂ぐらいと思っている人が実は多いのです。飛んで来たら追い払えばいいし。
でも、多い年では20名ほどが亡くなっているというし、刺されると最も時間的な余裕がなく致命的となります。熊やマムシでも死者は数名。このことからも、以下に蜂は怖いかわかります。
熊対策は鈴をつけたりして人の居場所を熊に知らせると基本熊から逃げて行ってくれますので、ある程度の回避策がありますが、蜂の巣はどこにあるのか、わかりません。しかも、毎年巣の場所が変わるので厄介です。唯一の対策は8月~10月の最も危険な季節にはマイナーなコースは行かない事かもしれませんね。
スズメバチの生態について
種類
・オオスズメバチ→攻撃性が強く土中に巣を作るので厄介
・キイロスズメバチ→残った缶ジュースなどの甘いものが大好き。軒下に巣を作ったり、町でよく刺される。
・クロスズメバチ→おとなしいが、巣の近くを歩くと攻撃してくる。
※これらの蜂をスズメバチまたは蜂と書きます。
行動パターン
ミツバチのような蜂とは全く性質が違うので、生活圏を脅かす対象には、積極的に攻撃してきます。攻撃対象は、熊やイノシシや人間です。彼らは急所を知っているので、目や頭のような黒いものをめがけて反射的に攻撃してきます。
スズメバチの一年
スズメバチは女王バチを除いて越冬しません。
冬を越した女王バチは春先に新しい巣造りのために単独で飛び回ります。この時は攻撃性はあまりないようです。巣作りに良い場所を見つけるとたった1匹で住処を作り始めます。オオスズメバチは土中に、黄色スズメバチはよく目にするぶら下がった巣。
夏にかけて、どんどん生まれてきた蜂は働きバチとして巣作りに勤しみ、家が手狭になると新しい住処に移ることもあるみたいです。
秋口は巣がどんどん巨大化してゆくので、近づくものに対して非常に敏感な季節になります。
危険な季節は8月から10月(本州近畿周辺)
この季節になると、蜂の巣が最大の大きさになり、働きバチも数千匹になるそうです。
近づく者には容赦なく攻撃を仕掛けてきます。
季節を終えて
せっかく作ったコロニーは1年で終わります。成長の遅い幼虫は引きずり出されて殺され、働きバチも一生を終えます。ところで働きバチはすべて雌。雄は刺しませんしグータラ亭主です。そして最後は女王バチだけが残り一匹だけで寂しく越冬します。
では、あれだけ大きくなった巣はどうなるのでしょうか。考えるともったいない話ですが二度とつかわれず空き家になります。そこが人間にとって厄介な部分で、毎年別の場所に作ることになります。昨年あったからと、そこを避けて歩いても全くの無駄。別の場所に、しかもどこにあるか見当がつけられません。
オオスズメバチは木の根の隙間などを利用して土中に作ることが多く、巣には数匹の蜂が護り、10メートル圏内に近づくと警戒蜂が出てきて警戒を始めます。そこに更なる刺激が加わることによって攻撃態勢となるようです。顎をカチカチ鳴らして応援を呼ぶそうですが、私の体験上はその音も気づきませんでした。例えば、単独蜂が人に近づいて来た場合にそれを払いのけた場合、蜂はときに人を刺したり毒液を噴射したりしたことによってフェロモンを出すといわれています。フェロモンを感じ取ると一斉に巣穴から大群が飛び出し襲いかかられるという事です。
登山において、仮に単独行者が通ったとしても単独行では地面の振動も少ないため、攻撃されないこともあるらしく、その後にグループで通った登山者が標的になることもあります。
全く油断できません。
楽しいはずの登山が一気に地獄となる恐怖は、ロシアンルーレットそのものです。ロックオンされるとおしまいです。
蜂の攻撃対象1・2・3
1.黒の恐怖
蜂は人やクマなどの天敵に対して攻撃を仕掛けてくるので、黒いものに集中的に襲ってきます。例えば黒い髪、目、黒い服、帽子などです。私の場合も顔面目掛けて突進してきました。しかも毒液を噴射したりして刺されないまでも目にはいったら大変なことになってしまいます。そういう意味では長袖・長ズボンは必須です。
2.香水
香水などの匂いには興奮し攻撃態勢をとるそうです。本にも紹介されていますので避けましょう。
3.行動
蜂が数匹まわりを飛び回っている時に、手やタオルで追い払うと、一気にスズメバチの攻撃スイッチが入ります。間髪を入れずに一斉攻撃されますので絶対慎むことです。
被害を減らす4つの工夫
・黒い物は避ける
・長袖長ズボンスタイル
・頭からかぶれるビニールか防虫ネットをポケットに
・香水などは避ける
運悪く蜂に出会ったら その対処法は!
蜂が体にとまったら決して払いのけず、離れるまでじっとしていることです。払うと瞬時に刺されます。
数匹の蜂が飛び回ったら、払わずゆっくりその場を避け、引き下がるか遠回りをするかです。
運悪く蜂の巣の近くを通った時には、目を覆い、体にとまらないように払いのけながら100m走走って逃げるしかありません。100m遠ざかると蜂は追いかけてきません。
アナフィラキシーショックについて
蜂に刺されるとアナフィラキシー症状は30秒から数分程度で出るそうです。その時に出なくても数日間は出る可能性があるという事です。2回目はショックを起こす可能性が上がるそうですが、初めてでも体質によっておこります。
全身症状としてチアノーゼ、倦怠感、吐き気、悪寒、じんましん、不整脈が出てたちまち行動不能になるようです。そうなると携帯電話も操作できず話すこともできない状態。これは、単独行では致命的。グループでも救急隊が来るまでには間に合わないという事を意味します。
そういった意味でエピペンは最後の砦になると思います。参考までにスズメバチ以外でもアシナガバチや他の蜂でもショックは起きる可能性があるらしいですね。
蜂に刺されたときの対処グッズ5つのとその処置について
それでも蜂に刺されたら
私はこの季節の蜂対策として、次のものを携行しています。
※特に私は一度蜂に刺されていますから、アナフィラキシーショックの危険性ありです。
蜂専用スプレー(スズメバチサラバなど)
ポイズンリムーバー
洗い流すための水(日頃の飲み水として持参の水を代用)
ステロイド軟こう
エピペン2本
スズメバチに刺された!!その痛い体験
10月下旬の事。マイナーな山での出来事でした。
50年ほど前、私が中学2年、父に連れられグループ登山の時。
杉林を抜け、なだらかな山道を登って行き、やがて杉林と平行に灌木交じりのススキの道となってかき分けながら登っていました。私は3番目。前を歩く父親に蜂が纏わりつくように飛んでいるのが見えました。それをタオルで振り払った瞬間だと思います。すぐ後ろを歩いていた私。一斉に飛び出してきた無数の蜂は顔前に向かってワッと。一瞬に視界全部が “まっ黄色” になったのを覚えています。当時蜂が地面から出てくるなんて考えもしなかったので、意表を突かれた感じでした。あの唸るような不気味な羽音は今でも鮮明に覚えています。瞼に攻撃してきた蜂の大きな胴体が片目を覆った瞬間、目をつぶり払いのけたのを覚えています。私は咄嗟に後ろに走りだしました。その時に、顔面や頭、腕などに半田ごてを押し付けられたような強烈な痛さを感じながら、前に逃げた父親グループと私のグループとが蜂の巣を境に前後に分断された感じになりました。「父親からの声。大丈夫か」と。そして私は「蜂に刺された」。
父は、息子が心配になってザックを降ろしてタオルで蜂をはじきながら戻ってきました。そうしていると一斉にとびかかった蜂が父にまとわりつき、黄色い煙幕のように。父の背中は真っ黄色、全面ハチが群がっていました。今思うと壮絶な光景。父親は背中が真っ黄色になる蜂を取ってくれと言ってたのを覚えています。他の人も手伝ってくれましたが、私も軍手で無我夢中になって背中を思いっきりこそげ落とすと、ブチブチと音がしたのを今でも鮮明に覚えています。その時に私も追加で数か所やられました。恐怖のあまり泣きながら取りました。
とはいえ、今のようにアナフィラキシーとかという言葉も一般的でなく、蜂に刺されたぐらい程度の感覚。今思うとのんびりもしていた時代だったと思います。
山は一本道、しかも前後に分断されたグループ。結果的に最後尾のリーダーは刺されていなかったので、カッパを着てビニール袋で顔を覆ってそこを通過し、前のグループに追いつきました。今思うと馬鹿な決断をしたものです。巣の上を走って通過しました。
さて、下山もそこを通るという事で。またあそこを通るのか。やはり走って通過しました。顔にかぶったビニール袋、息が苦しくなると隙間を開けて息を吸いまた閉める操作を繰り返しながら走り続けました。その間もカッパやビニール袋にバチバチ当たってくる音。いつまでも追いかけてくる蜂。一人は蜂の巣に尻もちを搗き瞼と手をやられ、別の人は息を吸うためにビニールを開けた瞬間、中に入ってきて顔をやられ、ビニールを外して走ってきました。多分100mは走ったと思います。応急処置は毒を絞り出したこととアンモニアを塗りましたが。今の知識ではアンモニアはダメだそうです。
結果的に、ビニール袋で覆った軍手は貫通。雨具は大丈夫。顔に被ったビニールは肌に密着していないので大丈夫でした。
私が5か所。父親は全身30か所ほど刺され、ほとんどの人が複数個所やられました。父はふらふらすると言いながら帰宅したのを覚えています。夜中にかかりつけのお医者さんに診てもらったのですが、当時のお医者さんも蜂の知識はなく、とりあえず痛み止めと、抗ヒスタミンの塗り薬程度。痛みとしては刺された時が一番痛かったように思います。今思うと生きて帰れたことは奇跡のようなものです。
とりついた蜂を手でこそげると針だけが刺さったままのもあって、毒袋が脈打っていました。とりついた蜂は何度も何度も刺すような格好で、口で服を嚙み、お尻を丸め羽をばたつかせながらいつまでも離れません。
こういった、恐怖の体験から、ニュースで毎年亡くなる被害を聞くたびにトラウマとなって浮かんできます。刺された経験のない人は言うのですが、蜂の巣に近寄らなければよかったのにとか、逃げたらいいのにとか。振り払えば、とか。
攻撃されたら決して逃げることはできません。
検証
軍手の上のビニール越しに突き刺すほどの毒針
雨具は蜂が滑って止まれないので有効と思われます
昔のニッカズボンのような目の粗い服は少々厚くても貫通
厚手のハイソックスも問題なく貫通
頭や瞼、首筋をやられた人が多い
払いのけられない腕の後ろや手の届きにくいふくらはぎの後ろ、背中が被害が多かった
全身に群がったら文字どおり全身が標的になる
間違って巣の上を歩くと一斉攻撃を受ける(巣は地中なので攻撃されるまで気が付かない)
たとえ巣の近くでも、靴の振動で刺激するようで、グループ登山は特に危険
攻撃されても概ね100メートル離れると、追いかけなくなる。それまではしつっく追いかけてくる。
8月から10月に向かって攻撃性を増すので、以前そこを通ったから大丈夫との油断は禁物。
近頃はトレラン人口が増え服装も最も無防備で、音や振動などで蜂を極度に刺激します。里山ハイキング、ブッシュ登山、ロッククライミング、沢登りすべてに蜂の危険があります。長袖長ズボン、明るい色の服装で。
蜂を見たら、君子危うきに近寄らず。
躊躇せずに静かに引き返すか、遠く巻くか別ルートにチェンジするかです。
いつでも山は待ってくれますからね。
この文章は個人的体験に基づき書いたものですが、裏付けとして、図書「人を襲う蜂」も参考にさせていただきました。お医者さんが豊富な臨床経験と研究結果をもとにスズメバチの行動を解説してくれている良書です。勧めの図書です。